十の刃に貫かれる。 一の刃で抗うも、百の刃に返される。 千の刃でついに墓石に縫いとめられると、おびただしい数の魔はその場を去っていった。 己の裡から温かいものが流れ出していくのを感じつつ、彼は霞んだ世界を瞳に映した。 圧倒的な「力」。 弱きを殺し、強きを留める、この世で最も確かで、絶対的な不文律。 悪魔である父がかつて力無きヒトのために振るい、憎み、封印したもの。 眼前に突如として現れた「それ」は、瞬く間に日常を蹂躙し、奪い去っていく。 温かいものを失って、代わりに冷たい「何か」で満たされつつある体を抱えながら、ただ、己の感覚だけが研ぎ澄まされていくのが分かった。 静かに崩れる世界の中から彼が拾い上げたものは、木や肉の焦げる匂いと、それから母の ちのにおい。 「母さん、聞いてよ!」 「どうしたの、バージル?」 「ダンテの奴、また僕のおもちゃで勝手に遊んでたんだ。ちゃんとしかってよ!」 「あらまあ…。でもねバージル、あなたはお兄ちゃんなんだから、少しくらい大目に見てあげない?」 「生まれたのはほとんど一緒じゃんか!…知ってるよ、母さんは僕よりダンテのほうが好きなんでしょ?」 「あら、見くびられたものねー。そんなわけないじゃない。…母さんは、バージルもダンテも、どっちもおんなじだけ、大大大好きなのよ」 「…本当?」 「本当。母さんと父さんは、バージルとダンテを子供にして下さいーって、神様に一生懸命お願いしたんだから」 「…。 …ねえ、母さん、」 「なあに?」 |
母さん、 あなたは "Did you love me?" |
もどる |