「ああッ!!おまえいつかのお笑い魔族!!」 「…げ」 どこかで聞いた声が聞こえた。 あれは、いつも自分の出世街道の邪魔をする、にっくき渡り鳥3人組(+1匹)…。 「マリエルさんッ!お怪我はありませんか?!」 渡り鳥のうちの一人が、少女に駆け寄る。 「はっ、今度はエルゥ倒してポイント稼ぎか?けどな、一人でのこのこ現れたのが運の尽きだ。いい機会だからここらでいっちょ世界のために魔族退治と行きますかねッ」 手際よく得物を構える剣士。 どうやら少女に危害を加えていると思われたらしい。 「ちょ、ちょいまち、今日は別にお前らに用があるわけじゃなく…」 「そっちがなくても、俺達はあるんだよッ」 「いやあまいったまいった、アイドルはその人気に比例して、いちゃもんをつける不逞な輩も多くなるっていうからな、世のマネージャーさんはクレーム処理に大忙しだぜ…って、のおおおッ!!?」 剣士――ザックの早撃ちによる先制攻撃をすんでのところでかわす。 「おいこらそこの老け顔剣士ッ!斬りかかる前に名乗りをあげるってのはサムライだって知ってる常識だぞッ!!」 「なんだよサムライって!?知らないようだから教えてやる、掃除はてきぱき速やかに!ファルガイア共通の大常識だッ!!」 「そうなんだ…」 「ロディ、真に受けないでいいよ、ザックの口からでまかせだから」 いつの間にかARM使いの少年の頭の上へと移動してきていた亜精霊、ハンペンは冷静に誤った知識を訂正する。 「人をまるで埃か紙くずのように…聞き捨てならねえなッ!!…よーしわかった!任務のついでに、ちょちょいとお前らまで片付けてくればきっとジークのダンナもご満悦、ポイント5倍のお客様感謝デー間違いなしだぜッ!!つーわけで、覚悟ーッ!!」 言うが早いが、ゼットは大地を蹴ってザックに肉薄し、その手の中に喚び出したドゥームブリンガーを横薙ぎに薙いだ。 ガギイィィンッ! 重い一撃を、ザックは得物の鞘で受け止める。 「ええい、どこまでも俺様と昇進の女神とのバージンロードに立ちふさがりやがってッ!人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られちまうって知ってるかーッ?!」 「んなもん知るか!ちょちょいと片付けられてたまるかよッ!」 鍔迫り合いは両者一歩も引くことなく続き、放置される形となったロディは加勢することも制止することも出来ず、ただ勝負の行方を見ているしかなかった。 「…これでは埒が明きませんね」 公女は小さくため息をつき、アークセプターを構えた。 「…セシリアさん?」 「お腹も空いてきましたし、早く終わらせて夕飯にしましょう。急がないと、いつものおいしい焼きそば屋さんがしまってしまいます」 マリエルが怪訝そうに尋ねると、セシリアはにっこりと微笑んだ。 すると、いまだゼットとの攻防を続けていたザックがうんざりとした声をあげる。 「うげ…姫さんさっき昼飯に焼きそば大盛り3皿平らげたばっかじゃねーかよ…」 「今日もまさに鬼神のごとき食べっぷりだったよね」 「もう、またそうやっていじめます!」 ザックの剣を受けたまま、ゼットは視線だけをセシリアに向ける。 「悪いがお姫サマ、これはオトコとオトコのガチンコ真剣勝負なんだ。今日の所は焼きそばは諦めて、後で焼きうどんでも食ってくれないか?」 「問答無用です。食前の運動と思って、さくっと行かせていただきますよ。それに、焼きうどんなんて邪道です」 「塵埃の次は、人を食前の軽いスナック呼ばわりかよ…」 「…ほら、ザックさん、早く離れないとまとめてやっちゃいますよ!」 言うが早いが、セシリアは精神を集中させ、呪文の詠唱を開始する。 「ちょちょっとまて。今離れる!」 力を入れる向きを変えてゼットの刃をいなすと、ザックは彼と大きく距離を開けた。 「秘めたる激情…」 「どうした老け顔剣士、俺の不屈のガッツに恐れをなしたかッ!?」 「誰がお前なんかにッ…って、姫さんその呪文まさか…」 「んあ?」 「翼に燃やして、解き放てッ!」 上空に響く爆発音。 嫌な予感に、ゼットは恐る恐る、音のする方を見上げる。 そこに現れたのは、灼熱の炎を翼に纏った巨鳥であった。 「ムァ・ガルト…」 ロディがその名を、小さくつぶやく。 炎をつかさどる守護獣、ムァ・ガルトはそれに応えるように高らかに啼き、ゼットに向かって、その翼を大きく羽ばたかせた。 「ぎゃあああああああああああああああああああッ!!!」 哀れな魔族は、巨鳥の放った炎にみるみる包まれていった。 「よりにもよって、マテリアルかよ…」 「ムァ・ガルトなんて、食前の運動にしちゃ激しすぎるよね…」 「この方法が一番手っ取り早いですから。そんな事より、今はお店に行くことが先決です。…あ、マリエルさん、お騒がせしてしまってすみませんでした」 「あ、いえ…」 少女にぺこりと頭を下げると、呆れ顔の仲間達を引っ張って、セシリアは花園を後にした。 徐々に遠ざかりながらも、ロディだけは気遣わしげに何度もゼットの方を振り返っていた。 |
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